『孤高の姫君のアリア -Happy Birthday-』
12月21日(月)
今日は私の誕生日。
誕生日だからどうってわけではないけれど、
自分だけの記念日というのは、やはりうれしいものだ。
明日の準備で今日は大忙しだったけど、おかげで頑張れた。
お祝いは秘密のバーで。
口当たりが軽くてとっても美味しいお酒だった。
これで明日もまた頑張れる。今日に乾杯。
【 12月21日(月) 朝 】
チュンチュン……チチチ……
「おはようごじゃりますじゃ姫様」
「おはよう婆や」
「いつも早起きですのぅ、よい心がけですじゃ」
「早起きはただの習慣ですよ」
「良き生活習慣は、人間性の表れですぞ。さすが姫様ですじゃ」
「婆やも早起きではないですか。人間ができていますね」
「まっ(*´д`*)――では姫様、今日も一日頑張りましょう」
「はい」
【 12月21日(月) 夕 】
ゴーン。ゴーン。
「今日も一日お疲れ様ですじゃ」
「はい」
「また、今からお出かけですかぇ」
「はい」
「かような出で立ち、毎日なさるのも大変でしょうに」
「いえ、もう習慣ですから。いつものことですけど、どうか皆にはナイショで」
「はいな」
「では、行ってきます」
【 12月21日(月) 夜 】
「最近よく来てくれるじゃねぇか。こんな場末の酒場に」
「ただの習慣です」
「ありがたい習慣だよ」
「今日はそうですね、これをもらいましょう」
「あいよ。嬢ちゃんはどこか高貴の出かい?」
「…………」
「なんつーか、こんなトコに来れるよう、ムリして自分を汚してるように見えるぜ」
「見えますか?」
「失礼ながら」
「難しいものですね」
「嬢ちゃんの普段のカッコでいいぜ?
ここには目立つヤツだからって絡んでくるようなバカはいねぇから」
「そうですか」
「そうそ」
ガヤガヤ……ガヤ……
「……おぅネーチャン、ひとりけ? 一緒に飲まね?」
「間に合ってます」
「まぁそう言わず」
「間に合ってます」
「いいから」
「失せろ」
「(つД`)」
ガヤ……ガヤガヤ……
「絡んでくるではないですか」
「カワイイ男ばかりで平和だろ?」
「これが、ここの日常なのですね」
「平和な国はいいものだ。たまに外から攻め込んでくる魔物共なんかもいるがな。
その辺、王女様がむやみと争い事にお強いおかげでかくのごとしだ。ありがたいねぇ」
「王女様……」
「あぁ。オレぁ顔を見たこたァないんだが、
これがまだまだ若い女性だとの話だ。信じがたいがね」
「…………」
「嬢ちゃんみたいなカワイイお顔なのかね」
「ごちそうさま。今日はこれで失礼します」
「まいど」
12月22日(火)
今日は私の誕生日。
これまでの生に感謝。皆からの祝福がうれしい。
この祝福の日に、いよいよ隣国王家との会合が実現した。
あのク■親■■あの父と仲の悪かった、隣国の王を交えての会合。
別に、あの父への反抗心で隣国との関係を変えるわけではない。
父は父。私は私。私は私の生き方を通す。それだけだ。
会合は無事に成功。
あの王も、やはり人の親だった。
お祝いは秘密のバーで。
口当たりが軽くてとっても美味しいお酒だった。
これで明日もまた頑張れる。今日に乾杯。
【 12月22日(火) 朝 】
チュンチュン……チチチ……
「今日はお忙しいですぞ。スケジュールはこの通り」
「目が回りそうなタスクですね。
ですが婆やが降霊術で専門家のアドバイスを聞かせてくれるから、いつも安心です」
「ワシのおかげと言ってくださるかぇ」
「死なないでくださいね。国が滅びます」
「若いオトコを見繕ってくださりゃ、もちっと長生きしますじゃ」
「あそこの近衛兵らでよければ」
【 12月22日(火) 夕 】
ゴーン。ゴーン。
「今日も一日お疲れ様ですじゃ」
「はい」
「今日は特に頑張られましたな。隣国王家もご満悦の様子。大成功でしたな」
「婆やのおかげですよ。
百人の側近がついていると思えたからこそ、頑張れたのですから」
「ワタシャただの飾りですじゃ。肝心なのは、姫様たちの意志。
やっぱ若さってええですのぅ(*´д`*)」
ゴーン。ゴーン。
「また、今からお出かけですかぇ」
「はい」
「タフじゃのぅ、その若さで一国の主の責をまっとうし、
さらに鉄の肝臓をお持ちとは。さすが『神の子』ですじゃ」
「…………」
「かように呼ばれるのはお好きでないようで」
「行ってきます」
【 12月22日(火) 夜 】
「らっしゃい」
「こんばんわ」
「また今宵もそんなカッコで」
「目立つのはキライなんです」
「目立ってるって」
「難しいですね」
「ウチの娘の服着せちゃろか?」
「結構です」
ガヤガヤ……ガヤ……
「おぅ、ネーチャン……せっかくだし、着てみてくれよ……ハァハァ」
「失せろ」
「(つД`)」
ガヤ……ガヤガヤ……
「今日はそれをいただきます」
「これか? コイツはちょいと強めだぜ?」
「今日はそれを飲むと決めてましたので」
「そうかい」
12月23日(水)
昨日までの多忙はどこへ行ったのやら、今日は一日、とっても暇で平和だった。
たまにこんな日があるのがいい。
貴重なる休暇を目一杯楽しませてもらった。
これぞ誕生日だ。
そしてお祝いの締めは秘密のバーで。
口当たりが軽くてとっても美味しいお酒だった。
今日に乾杯。
【 12月23日(水) 朝 】
チュンチュン……チチチ……
「おはようごじゃりますじゃ」
「おはようございます。今日の婆やはなんだか元気そうですね」
「そりゃあ美味しかったですからのぅ。じゅるり(゚∀゚)」
「そのあふれんばかりのエネルギーで今日も一日よろしくお願いします」
チチチ……チュンチュン……
「さておき姫様、見てくだされ。今さっき届いた伝書ですじゃ」
「伝書? …………、……………………」
「……おめでとうごじゃりますじゃ。今日はまたお忙しいですぞ」
【 12月23日(水) 夕 】
ゴーン。ゴーン。
「国民は皆、大喜びですのぅ」
「そのようですね」
「亡き先王も、さぞかし喜ばれているでしょう」
「…………」
「あいかわらず、ワシの降霊術に応える気配はないですがな」
ゴーン。ゴーン。
「父は、私には厳しい人間でしたからね」
「…………」
「それに、今回は事が事ですから」
「確かに先王にとっては複雑な出来事かもですな」
「いいのです。今、国を動かすのは父ではなく私なのですから」
「姫様……」
「父が喜ぼうと、どうあろうと」
【 12月23日(水) 夜 】
「らっしゃい」
「こんばんわ」
「おぅネーty」
「失せろ」
「(つД`)」
ガヤガヤ……ガヤ……
「嬢ちゃん聞いたか? この国が犬猿の仲だった隣国と、ついに和解したって話」
「えぇ」
「ったくスゲェやな。その隣国の援助で、なんと税金がガッツリ安くなるって話じゃねェか。
王女様の外交スゴすぎるぜ!」
「そうですか」
「さすが『神の子』と言われるだけあるやな」
ガヤ……ガヤガヤ……
「…………」
「嬢ちゃんは知ってるか? この国の王女様は、亡き先王の子じゃないってウワサ」
「…………」
「知らねェのか? この国の王女様は、先王夫妻の実子じゃあなく、
ある日教会の軒先で見つかった素性不明の赤子なんだってウワサがあるんだよ」
「…………」
「教会でちょうどその時礼拝で来ていた先王夫妻が、
天からの授かり物として、極秘に養子として迎えたって話だ。
先王夫妻はずっと子宝に恵まれなかったからなぁ……
そんなウワサが立っても仕方ないっちゃそうだが」
ガヤガヤ……ガヤ……
「…………」
「嬢ちゃん、今日は飲まんのか?」
「…………。今日は、それを」
「これ? これかい?」
「はい」
「嬢ちゃんにゃ強すぎるよ。他のにした方がいい」
「それをください」
「…………」
「ください」
「…………」
「ください」
「知らねェぞ?」
12月24日(木)
私の出生について、定かな事は何もない。
両親は他界し婆やの降霊術にも降りず、教会は知らぬの一点張りだからだ。
正直、この事実、私にとってはどうでもよかった。
私が王家の血を引いていようと、名もなき捨て子であろうと。
私■■■私は着実に公務をこなし、国の最高権力者としての責を全うしている。
臣下や民の人気もそこそこにはある。
それでいい。
それでいいではないか。
たとえ誕生日もわからぬ身であろうとも。
そんなもの、好きな日に勝手に祝えばいいのだ。
そう、だから今日は私の誕生日。
これまでの生に感謝。今日に乾杯。
【 12月24日(木) 朝 】
チュンチュン……チチチ……
「おぉ姫様よ。二日酔いとは情けない」
「ごめんなさいね婆や」
「ワタシャかまわんですが、今日は隣国の王子様とお会いするご予定では?」
「あっ」
【 12月24日(木) 夕 】
ゴーン。ゴーン。
「……ますますもって顔色が悪いですぞ姫様」
「全然大丈夫です」
「姫様が倒れてしまっては、それこそ国が傾きますぞ」
「婆やの降霊術に降りますから大丈夫です」
「笑えませんですじゃ」
ゴーン。ゴーン。
「それほど調子悪いなら、今日は一日お休みされれば良かったでしょうに」
「一度、公式にふたりっきりでお話してみたかったのですよ。王子様と」
「まっ(*´д`*)で、いかがでしたかの?」
「何を話したのかほとんど覚えていません」
「……ちょ、姫様。どちらに行かれるので?」
【 12月24日(木) 夜 】
ガヤガヤ……ガヤ……
「お、おう。ネーチャン……大丈夫か?」
「……………………」
「嬢ちゃん、ずいぶんと調子悪そうだな。家だか宿だかで寝てた方がいいぞ絶対」
「おかまいなく」
「昨日あんなのガブガブ飲むからだよ。だから言ったろうに」
「ふふ。とってもおいしかったですよ」
「そりゃどーも」
「今日もアレをください」
「寝ぼけんな」
ガヤ……ガヤガヤ……
「いいじゃないですか、誕生日くらい……」
「お? ネーチャン、今日誕生日なのか?」
「おめでとう私」
「ネーチャンに乾杯! マスター、一杯くらいいいじゃねェか!」
「このケーキ食って帰って寝な」
「ふふ」
「そんなムリしてまで来るような店じゃねェだろどー見ても」
「祝ってくれたら帰ります」
「おめでとう名も知らぬ嬢ちゃん。ほれ、食って帰って寝ろ」
「ありがとうございます……。……ごめんなさい」
「んん?」
「…………」
12月25日(金)
今日は私の誕生日。
これまでの生に感謝。皆からの祝福がうれしい。
だが真に祝うべきは、きっと明日。
頭が割れそうだった昨日の淡い記憶の中で、かろうじて残っていた記憶。
思い出せてよかった。
あの王子が、誘ってくれた。
王子から、誘ってくれた。
明日。
おかげで今日は、明日の準備で大忙しだった。
朝のうちに公務を全て済ませ、昼からお忍びで城下へ。
どんな服にするかさんざん迷ったけど、ちょっとばかりムリしてやった。
浮かれているのだろうか、私。
きっと浮かれているのだろう。
今日の行動を見た人に、自分が女王だと言っても信じてもらえないかもしれない。
でもかまわない。
だって今日は誕生日だもの。
今日、出会った人々に、私の明日のことを言って聞かせてまわった。
婆やに。近衛兵に。非番の特殊活動隊に。店の主人に。町ですれ違う人々に。
そのたびに沸き起こる、割れんばかりの祝福の嵐。
ありがとう、王子。
おかげで今日のうちから、一日とても幸せな気分だった。
前祝いは秘密のバーで。
口当た
【 12月25日(金) 未明 】
「毎朝、お前はいったい何を書いておるのだ」
「!! ば、婆や?! ノックもせずに――」
「ヴァンデミエールよ」
「ッ?!」
「その日記は、お前の寂しさを埋める心の糧となっておるのか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……親子としてのふれあいもろくにできぬままに、
妻ともどもお前のもとを去った影響が、ないはずがないとは思っていたのだ」
…………
「……お久しゅうございますお父様。
なぜ、これまで婆やの降霊術にも降りて来られなかったのですか?」
「…………」
「なぜ、今になって会いに来られたのですか?」
…………
「――今まで会おうとしなかったのは、
お前が王として『一人前』となるのを邪魔したくはなかったからだ。
一人前となるまで、我々の存在はお前に甘えを誘発すると考え、
妻ともども顔を見せまいと決めておったのだ」
「そうですか。それで、私がついに『一人前』となったので、会いに来てくださった」
「…………」
「わけではなさそうですね」
…………
「その日記は、お前を破局に追い込むだろう。ただちにやめるのだ」
「それは親としての忠告ですか? 先王としての警告ですか?」
「ヴァンデミエール、しっかり聞くのだ。
その不健康な習慣は、お前の心に歪みを残し続けるだけだぞ」
(……親ではありませんでしたね。
生前も、私たちはそんな現実にふさわしいドライな関係でした。
あなたは今、王としての私が心配で、王としてお話をされているのですね?)
「理想を夢見てから現実に向かうような、減点方式の日常を送れば、
お前はいつしか世界を幻滅することになるぞ」
(……ならば、私も、王としてお答えしましょう)
「まず、現実と向き合うのだ。それから理想を見出し、紡」
「失せろ」
【 12月25日(金) 夜 】
ガヤガヤ……ガヤ……
「……今日はいつものネーチャン、来なかったな」
「昨日のムリが祟ったんだよ。きっと」
「明日は来てくれっかな?」
「さぁて」
「どこに住んでんだろ。マスター知らねェか?」
「残念ながら」
「…………」
「どこかで見たことあるような顔なんだがなぁ」
ガヤ……ガヤガヤ……
「こうしてる間にも、あのネーチャンは苦しんでるんだ。
よし、酒を絶って回復を祈ろう」
「酒場でそんな発言は慎め」
「…………」
「心配するなって。きっとすぐに良くなって、笑顔で顔見せてくれるさ」
12月26日(土)
私■■■■がその■■■■■■■■た。し■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■。■■■王■何■もっ■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■った。だが■■■■■始
るのが既に■■■■■■■■■■■■■■■
さら■■■■■■■■■■■■■■■■■■ で
■■■■■王■■■■■■■■■■■■■ 切り
■■■■■■■■■■■■■■■■■たが にする■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■で■■こ
■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■ 滅
■■■王■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■
■■■■■■■■■■■■■■王女■■■■■■■■ 断じ
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■れ
■■■■■■■■■■権■■■■■■■■■■■終 のか。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■
■■■■■■■■■■■■ぬこ■■■■■■■■ ■■
■■■■■■■■■■■た■■■■■■■■■ ■■
で■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■
愛■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■とも
■■■■■■憎■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■なせてや
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■いっそ■■■■■■■■■■■■■■
【 12月26日(土) 朝 】
コンコン。
「姫様?」
コンコン。
「姫様、まだ寝ておられるのですか?」
コンコン。
「……入りますよ?」
【 12月26日(土) 夜 】
「……。らっしゃい」
「どうも」
「何にする?」
「では、それを」
ガヤガヤ……ガヤ……
「ほいよ」
「ありがとう」
「兄ちゃんはどこか高貴の出かい?」
「…………」
「なんつーか、こんなトコに来れるよう、ムリして自分を汚してるように見えるぜ」
「……見えますか?」
「失礼ながら」
「難しいものだね」
「兄ちゃんの普段のカッコでいいぜ?
ここには目立つヤツだからって絡んでくるようなバカはいねぇから」
「そうですか」
「そうそ」
ガヤ……ガヤガヤ……
「おうニーチャン、ひとりけ? 一緒に飲まね?」
「結構です」
「……ニーチャン。わりと、カワイイ顔してんな……ハァハァ」
「失せろ」
「(つД`)」
ガヤガヤ……ガヤ……
「顔はカワイイのに芯は強そうだな」
「カワイイは余計です。気にしてますので」
「悪いね」
「ところで、この酒場には王女がよく来ると聞いたのですが、今日はもう来られましたか?」
「……え?」
「王女です。この国の」
「…………」
「ご心配なく。口外はしませんので」
「お、……王女??」
「はい。この国の紙幣にも印刷されている、あの方です」
「えっ? えっ?」
ババッ。
「…………………………」
「来られましたか?」
「……いや。昨日から見てない」
「そうですか」
「なんだか体調だけでなくいろいろ調子悪そうだったんだが、どうなってんだ?」
「今日はこれで失礼します。また来ますので」
「そ、そうかい」
月 日( )
【 12月27日(日) 朝 】
チュンチュン……チチチ……
「すまない。キミも自国のことで忙しい身だろうに、
こんなことでこの国に足止めさせてしまい、申し訳ない」
「いえお婆……お義父様。あの方とこの国について知る、良い機会です」
「私も探しに行きたいのだが、娘が不在の今、
婆やを通じて私がこの国の舵をとらねばならんでな」
「心中お察しします」
チチチ……チュンチュン……
「今は妻が外を探して……、む。…………ふむ……ふむ、そうか」
「?」
「妻が見つけてくれたようだ。
あの酒場向かいの安宿に泊まってるらしい。
体調も回復して、今は落ち着いているそうだ」
「そうですか。では――」
「夜、酒場で待っててやってくれないか?」
「…………」
「きっとその方がいい」
「……そうですね」
…………
「父子としての思い出は、あの子がずっと幼い頃、
お忍びで一緒に城下のあの酒場に遊びに行った時くらいのものだよ」
「…………」
「足りないな。全然足りない。君もそう思うだろう?」
「…………」
「まかせたよ。王子」
【 12月27日(日) 夜 】
「らっしゃい。……おっ」
「こんばんわ」
「久々だねぇ嬢ちゃん。具合はもう大丈夫なのか?」
「おかげさまで。お気遣いありがとうございます」
「心と体の健康は最高級の財産だってな。で、快気祝いは何にするよ?」
「…………。では、それを」
「ボクも、同じものを」
「え? ……っ?!」
「こんばんわ」
「………………」
ガヤガヤ……ガヤ……
「ほらよ嬢ちゃん。兄ちゃんも」
「どうも。いい色のお酒ですね」
「下品なだけの酒場じゃあねぇぜ。なぁ、そっちの『嬢ちゃん』?」
「…………」
「驚きましたか?」
「……えぇ。この酒場の事は婆やに聞いたのですか?」
「はい。他にもいろいろと」
「…………」
ガヤ……ガヤガヤ……
「ここに来るのは、かつての王だったお義父様の姿を辿りたかったからですか?」
「ただのストレス解消ですよ」
「先王として数十年、こちらの国を支えてこられた、立派なお義父様です。
その生き方の原点を探るため、こうして飲めないお酒を飲みに来られるのも
ひとつの方法ではありますが」
「父は関係ないです」
「あなたがここでお義父様との過去に浸るのは不毛です」
「ッ?!」
「亡くなられたお義父様との、貴重な楽しき思い出を風化させぬよう
必死に維持する必要などない」
「な、……!!」
「ボクが、必要なだけ、あなたの隣でお義父様の代わりになりますから」
…………
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
チーン。
「ハッピーバースデー」
「えっ」
「お義父様にお許しをいただきました。あなたには正確な生年月日がない。
このことがあなたの寂しさの呼び水となって、今、あなたをとても苦しめている。
だから、ボクにそれを決めてしまう権限を与える、と」
「…………」
「今日が、あなたの誕生日です。決めました」
「…………」
「…………」
「…………」
「敵国の王子だったボクを見初めてくれて、ありがとう。新しい門出に」
「…………ネーチャン……(つД`)」
12月27日(日)
今日は私の誕生日。
本当の意味での、誕生日。
私は今夜、生まれた。
私はまだ生後1日にも満たない存在なのだ。
昨日まで年下のやさしい男の子だと思っていた王子の、なんと頼もしきことか。
父を憎みながらも求め、惑う私を、導き救ってくれた王子。
私の目に狂いはなかった。
ね、お父様?
これをのぞき見ているお父様?
いい人だったでしょ?
やはり日記は、一日の終わりに書くものだった。
想像すらできなかったような出来事を書き残してこそ、日記は意味がある。
今日のような一日を、忘れないためにも。
次の誕生日はすごく遠い。
来年、私は何を書き残すのだろう?
一年前のこの誕生日を振り返って、何を思うのだろう?
今からとても楽しみだ。
これまでの生に感謝。今日に乾杯。
- 終 -